Little AngelPretty devil 
       〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

       “花散る里?”
 



梅に桜にと、春の訪れを告げる木花が次々に咲いた頃合いを過ぎて、
下ばえにも柔らかな緑色が目立ち始める。
現代に至れば、外来種のいろいろも交えて賑やかな限りであるが、
平安時代というとどんな草木があったものやら。

「今時分の頃合いだと卯の花に橘、藤の花というところかの。」

ツツジやサツキ、シャクナゲ辺りもあったそうですし、
季節は微妙ですが椿や蓮も。
あと、春蘭や芙蓉が中国からわたって来ていたそうですが、
そちらは庭で育てて愛でる種でしょうね。
一応は都のうちとはいえ、内裏からは外れた場末のあばら家屋敷では、
丹精せずとも野生の萩や山吹が逞しく自生しており、
枯草ばかりに覆われていた庭もやわらかな緑が少しずつ萌え出ている最中で、
自然の生命力の雄々しさを感じる時期でもある。

「卯の花は緑に白い花が生えて綺麗ですよね。」

永い冬が終わっていよいよの春というの、
実感させてくれる桜は、種類にもよるが花が先。
だが、そのあとへと続く木花は緑と共にお目見えするので、
その新緑に映える拮抗がまた鮮やかで。

「この時期だと突風が吹くのに散らされるのが気の毒じゃあるがな。」

桜のそれのような凄艶さはないが、
それでも可憐な花がはらりと地に落ちる様には目を引かれるもので。
だがまあ、それが賑やかな一幕にもなりかねないのがこちらのお宅の事情。

「………ぷvv」
「お、思い出しちゃいますよね。」

何か思い出したか、陰陽師の師弟がくつくつと吹き出しかかり、

「んや?」
「おやかま様、どしました?」
「せぇなも なんか変。」

何でどうして笑ってらっしゃる彼らかが、
ちいとも判らぬらしい小さな子ギツネの二人が
そりゃあ愛らしい恰好でキョトンと小首を傾げてござるが。
兄様二人が思い出したのは、
そんなおチビさんたちが舞い散る花に浮かれて起こしたひと騒ぎ。
この辺りにも桜花の名所はいっぱいあって、
日当たりにより盛りが微妙にずれているので、
強い雨が思いがけなく降りそそいでも
寒の戻りで遅い雪になっても、
そうそう慌てずともどれかの満開を堪能できる。
そんな桜を眺めにと、裏山の陽だまりを訪れた折。
ちょいと読みが甘かったか、そこの花の陣幕はやや散り始めており。
ままそれもまた風情があるよと、
花茣蓙敷いて、ちょっとした酒肴を広げ、
緋色の花の舞いという眼福に一行で見惚れていた、とある昼下がり。

 『あ。』

不意にやや強めの風が吹き、
術師師弟のまとっていた直衣の袖を揺らしたそのまま、
周辺の桜花をさらさらと散らし始めて。
これはまた絶景よのと、
蛭魔や瀬那、葉柱に、
給仕をしようと同行していたツタさんまでも、
言葉を失くして見入ったほどだったのだが、

 『お花お花、やんやん。』
 『いっぱいぱい、きえいねvv』

ふかふかのお尻尾を尚のこと ぶわっと膨らませ、
二人のおちびさんがわあと花吹雪目がけて駆けてゆき。
おぼつかぬ足取りで、上ばかり見上げて右へ左へ駆け回る。
どうやら花びらを捕まえたいらしいのだが、
結構一斉に散ったのに目移りして振り回されるか、
なかなか触れることさえ出来ぬようで。
小さな坊やたちがちょこまかと駆けまわる姿がまた愛らしくて、
一生懸命なのと思うと心苦しかったが、
ついつい“くくく…”と大人たちが笑っておれば、

 『もうもう、ちゅかまやない』
 『いじゅわゆ、ねえ。』

むいむいと膨れてお顔を見合わせ、うんと頷き合ったかと思ったら、
ポンという鼓を打つような音がして、坊やたちに白い靄がかかる。
そこで初めて、何だ何だと傍観していた大人らが腰を上げかけたが、

 「…はい?」 × @

くうちゃんもこおちゃんも、微妙に、いやいや随分と背丈が縮まっており。
その分…というのも妙なものだが、

 「増えてる。」
 「だよな。」

普段もちんまりと三頭身ぽいおチビさん。
それが もちょっと縮んだ姿で、7,8人に増えており、
舞い散る花びら目がけ、めいめいでパタパタと駆けまわる。

 「ちっ、いつの間にか新しい技を覚えよって。」
 「技って……。」

自分が知らぬうちに芸達者になってたのが癪か、
金髪のお師匠様が舌打ちしたのへ、
忍者ですかとセナくんが苦笑をこぼす。
それぞれで意思があるものか
縦横無尽という駆け回りようをするおちびさんたちは本当に愛らしく。
中にはちょっと休憩とばかり、葉柱のお膝に座りに来るのや
ツタさんの手づから“あ〜ん”してもらって赤米のお団子を食べてる子もいて。
なかなかに賑やかでほのぼのと、
楽しいお花見になったのが、今年は印象深かったなぁと…。

「しかもそれだけで終わらんかったしな。」
「そうでしたね。」

さあ帰るぞとちびさんたちを集めたところ、どうしてだか元へ戻れない。
数えてみると同じだけの数になったはずが奇数しか居なくて、
これは一人迷子になったと大慌て。
進まで呼び出し捜しまわった末に、
とある蛇神さんの昼寝の邪魔をしにと、
離れた広場まで伸してた子がやっと見つかり、
事なきを得たというおまけ付き。
相変わらずなお屋敷の面々なようで、
今年も賑やかになりそうな予感でございます。



  
     〜Fine〜  17.05.18


 *お久し振りにも程があるぞのこちら様です。
  いや案外と触れないでいてほしかったかな?(おいおい)
  あぎょんさん、自主的に攫ったのかと濡れ衣かけられてそうです。(笑)

  ちなみに、お花見という格好でのお出掛けというか行楽は
  もうちょっと後世になって広まるのですが、
  野山に出て野草を積むというのは、
  天帝様に元気な姿を見せ、
  お供えの季節の草木を積むということで随分と早くからあった習慣で。
  桃の節句や端午の節句も、そこから始まっているそうです。

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